技術レビュー

グローバルシャッターとローリングシャッター

カメラには一コマ一コマ確実に露光/遮光するためのシャッターが搭載されています。大きく分けてグローバルシャッターとローリングシャッターというものが存在していて世の中にあるほとんどのカメラはローリングシャッターが使われています。このローリングシャッターは普通に使っている分には問題がないのですが早い動きのある被写体やカメラが振動などでブレたりすると画面が歪んでしまうという特性があります。走っている電車の窓が歪んでるとかプロペラの形が変になっているとか、ドローンやアクションカメラの映像がぐにょぐにょになっているとかよく説明で使われることと思います。そういった現象の出ないグローバルシャッターとともにカメラシャッターの説明をしていきます。

  高速で移動する物体は歪んでしまう
  プロペラ系はキモいくらい変な形になる

■ ローリングシャッターだとなぜ画像が歪むのか?
ローリングシャッターで高速で動いている物体や振動で画像が歪んでしまう理由は全く同じ時間に一画面を記録していないからです。デバイスの種類にもよりますが記録のタイミングが全画面同時ではなくシャッターの降りる時間内である方向からスキャンして記録していきます。この時間内で被写体が動いてしまうと歪みやブレとなって現れてしまいます。デジタルカメラデバイスでよく使われるCMOSイメージセンサーで説明していきます。

ローリングシャッターのCMOSイメージセンサーでは撮像をある方向から1ラインずつ露光してデータを取り込んでいく構造になっています。横棒の長さはシャッタースピード時間です。次のライン読み込みまで時間がかかってしまうためこの時間のずれが画像の歪む原因となります。同じ画面の上下で露光しているタイミングが違うので当然そうなってしまいますね。最近では高速読み取り技術を使ってほとんど歪みが出ないようにしているセンサーもありますが細かいブレは抑えらていません。

一方グローバルシャッターのセンサーでは全画素同じタイミングで露光しデータの読み出しも同じタイミングで行われます。なのでローリングシャッタのような歪みというのは起こらないことになります。(ただし全く歪みとかブレが出ないというわけではなくシャッタースピードと被写体の移動スピードが適切でなければブレはでます。)
こうしてみるとローリングシャッターダメじゃんと思われるかもしれませんがいくつかの理由でそれが別に構わないとされてきた経緯があります。フィルム時代のシャッターがどうなっていたか説明します。

映画用フィルムカメラのシャッターはロータリーシャッターと言って図の回転するパックマンのような形の口にあたる部分を広げたり狭めたりすることで調整します。映画のフレームレートは24なので90°なら1/96sec、180°なら1/48sec というような感じです。(普通は180°を使う)パックマンは1コマにつき1回転して遮光している間に次のコマにフィルムが送られます。というわけで映画用フィルムカメラは全画面同時露光でなかったのです。スチルカメラで使う上下に幕が移動するフォーカルプレーンシャッターも同じことです。CMOSイメージセンサーほどのブレや歪みは出ませんがそれでもカメラってそういうものというイメージがありました。

ちなみにCMOSイメージセンサーと機械式回転シャッターを組み合わせてローリングシャッター歪みを低減したカメラってのも存在します。(SONY F65RS) ただしメカニカルシャッターはそれ自体振動の元になったり故障の原因にもなったりします。最新のデジタルシネマカメラはそういった機構は付いてないようです。後継のVENICEには無さそうですしね。
そもそも映画はフレームレートが低いので素早くカメラを振るような撮影はしません。

■ デバイスによって変遷するシャッター方式
ビデオの場合はちょっと複雑で時代により使う撮像デバイスによってローリングシャッターだったりグローバルシャッターだったりしていました。
撮像管:ローリングシャッター 1980年代まで
CCD:グローバルシャッター 1980年代〜2000年代初めまで
CMOS:ローリングシャッター 1990年代後半〜

撮像管はテレビ創生期からあったデバイスで真空管の一種のようなものです。焼き付きがあったり振動に弱く、レジずれ調整とかいろいろ手間のかかるもので長らく業務でないと使わない代物でした。その後CCDイメージセンサーが出てきて撮像管の持つ物理的なデメリットが解消され民生用カメラにまで一気に使われることになります。しかもこいつは最初からグローバルシャッターです。2000年代初めまでイメージセンサーといえばCCDでした。ただしデメリットがなかったわけではありません。CCD一番のデメリットはその複雑すぎる構造です。それゆえ製造コストが高く高解像度化も難しい、消費電力も高いということで現在ではほとんどCMOSにとって代わってしまいました。(工業用とか特殊用途にはCCDが現在でも使われています)そしてつい最近になってグローバルシャッターのCMOSが出てきたということになります。

■ グローバルシャッターとローリングシャッターの使い分け
世の中のカメラが全てグローバルシャッターCMOSになったかというとそうではありません。ローリングシャッターCMOSと比べるとCCDほどじゃありませんが構造が複雑なためコストは高く、感度は若干低め(同じセンサーサイズなら)、消費電力はチョイ上がります。コスト重視のカメラならローリングシャッター1択になってしまいます。なのでまだまだローリングシャッターカメラがほとんどで撮影する被写体によって使い分けることが必要だと思ってます。
グローバルシャッターカメラで優位な撮影を挙げると
 ・動きの速い被写体の撮影(スポーツ中継とかカメラで被写体を追う場合)
 ・撮影時に振動がどうしても避けられない場合(ドローン撮影、車載映像など)
 ・後で画像解析が必要な場合(歪みがアーティファクトノイズとなる)
 ・VFXでクオリティの高い合成を実現させたい場合(ブラーは後処理でかければいい)
 ・複数のセンサーを使うVRカメラの後処理でスティッチング(VR用に複数センサー画面を貼り合わせて合成すること)をするケース
ということになります。単純にブレない映像を見せる場合やローリングシャッターの歪みが余計なアーティファクトになるのを防ぐといった感じになります。

グローバルシャッターカメラで撮った映像の例を挙げておきます。CIS VCC-4K2 4K60Pカメラを使用し首都高の車載映像です。
 Metropolitan Expressway 4K/60P HDR Shooting HLG Version

標識の看板も読めますし、段差の振動も自然。両脇の流れもブレずに収録されていますがグローバルシャッターならではといったところです。CISグローバルシャッターカメラの実例としては
 ・国内某サーキットのゴール判定での使用(300km/h近いスピードでも歪まずブレない)
 ・VFX用ロボットカメラとして使用(ブンブン振り回すらしいのでグローバルシャッターが適当)
 ・大御所海外ヘビメタバンドのドラマーがライブで自身の撮影に使用(ドラムはかなりの振動になります。しかもドラマー個人の所有物)
というのがあります。

撮り方を工夫すればローリングシャッターでもいいところまで追い込めたりしますがグローバルシャッターカメラを経験するとあんまりローリングシャッターで撮りたくなくなるのも事実です。