展示会

NABShow 2024 雑感

 今年も4月13日〜17日にラスベガスコンベンションセンター(LVCC)で開催されたNAB Show 2024の雑感を書いていきます。(展示は14日〜17日)今年は円安がさらに進んですごいことになってますよね!展示会場内の自販機で飲み物買おうものなら1000円で2本も買えません!乾燥しきっているラスベガスでこれは死活問題です。加えて燃料費の高騰で飛行機代も高くなってます。ストリップ通りのホテル代よりも高くなるなんて過去の記憶にはありません。もっともホテルも謎のリゾートフィーチャージが追加されるわけですが、、
 コロナ時に進んだIPワークフローやA.I.を使ったワークフローが一気に当たり前のものとして使われてきていてNABもその展示が多かったように思います。映画業界、放送業界は保守的なところが多いのですが新しい技術を使ってみて実はこれでいいのでは?という雰囲気になっています。また既存の業界とは異なる人たちが映像を使った情報発信をして新しいマネタイズをおこなうクリエイターエコノミーもNABでは注目されています。旧来と同じことをし続けてお金ナイナイと言っている状態では新たなイノベーションも生まれてきません。NABShowは年々着実に進んでいるなぁと思うところです。

− Caution −
 ・この雑感レポートはM-Designの独断と偏見に基づいたものになります。再利用の参考には推奨しません。
  他のWebサイトをご覧いただくほうが無難です。
 ・製品自体のレポートは特にしておりません。全くの個人的興味で雑感を書いていることをご了承ください。

 

 今年のNABShowはセントラル、サウス、ウエストの各ホールで行われました。展示会場が改装中で、去年はサウスホールが使えなかったのですが今年は復活。代わりにノースホールが使えなくなっています。展示内容ごとにゾーンが分けられているのも去年同様、CREATE:制作機器関連、CONNECT:OTTやIPインフラ関連、CAPITALIZE:コンテンツの収益化というおおまかなカテゴリ分けになります。去年はINTERIGENT CONTENTというカテゴリがあったのですがなくなっています。わかりにくかったんですかね?CONNECTに統合されたんだと思われます。

数字で見るNABShow 2024
  全登録参加者   61,000人以上(予測値、去年:65,013人)
  海外からの参加者 16,470人以上(予測値、去年:17,446人)
  参加国数      163カ国(去年:166カ国)
  展示社数      1300社くらい  (去年:1208社)


 なんだかはっきりしない発表ですが2年前よりは大幅に増加しているものの去年よりはちょっと少なかったというのが大方の見方です。別の資料では半数以上が初めて展示会に参加とありますがその統計が2017年以降参加していない人を初参加とカウントするとのことでなんだかなぁという感じです。サウスホールも上下階での開催ですが展示スペースは半分くらいです。以前初めてサウスホールに降り立った時に会場奥が霞んで見えないという体験をもう一度したい気がします。もっとも新造のウェストホールが大きいので展示会場全てを埋めるということは難しいのかもしれません。

− NOTE −
 ・セントラルホールとウエストホールの間はVegas Loopという地下をテスラ社の車で運んでくれるサービスがあります。
 ・セントラルホールとサウスホール間は歩けるのに人を荷物扱いでカートで運ぶサービス(アトラクション?)が復活してます。(私は恥ずかしくて乗ったことありませんが、、)

 

 今年のNABで一番の注目はA.I.(生成型AI、機械学習を含む)です。会場では130社以上の出展、120以上のカンファレンスやセッションが開かれています。機械学習に関してはコロナ期間以降で広まった少人数でのコンテンツ制作でその生産効率を上げることに成功していて、これって便利じゃね?という認識が広まっています。生成型AIに関しては良い面とと悪い面が同居していて業界内でいい方向での合意形成ができるよう話し合って行く必要があります。

 コンテンツ制作でのA.I.(生成型AI、機械学習 ML)の使い所
現在A.I.を使った映像ワークフローでは
 ・人のスピードでは追いつかない人外的なことをさせる
 ・必要なことではあるが人の手でやるには面倒な事務的作業
 ・オペレーターの補助やアシスタントとして使う
というケースがほとんどです。これらにより生産性が向上して数少ない人数でのコンテンツ制作が容易になります。

 以下は自分の仕事に関わるところでA.I.にすれば楽だなぁと思われるケースです。Vをクリックして展開してください。

Case.1 映像・音響アーカイブのタグ付けをA.I.が自動的に行う

 NABShowでA.I.使用の例としても出されています。映像・音響アーカイブを効率的に再利用するには素材に対して詳細な情報、つまりメタデータを数多くタグ付けする必要があります。とある制作スタジオでそのために全クリップごとに詳細なタグ付けを課すようにしたそうです。ロケから帰ってきて休む暇もなく素材をサーバーにコピー、経費清算もままならないところで大量のタグ付け作業。そのくせ働き方改革のために早く帰れと上司に言われ全く時間が足りない状況。そういったことはA.I.にやらせれば時間に余裕もできて本当の働き方改革になります。

 

Case.2 ロトスコープのマスク切り抜き作業

 今から20年ほど前、自身が設計したスタジオを1ヶ月借り切って作業する方がいました。作業内容を聞くと合成用のマスクをロトスコープで1コマ1コマ切り出すとのこと。モニターと睨めっこしてマウスでカチカチマスク範囲の設定、1時間もするとぷはーっ! と大声を出して部屋から出てきます。これがこれが続いていくとだんだん人がおかしくなっていくんですね。最後は声をかけるのも憚られました。大事な仕事ではありますが、その様を見て同じ切り抜きなら2代目 林家正楽のほうが幸せそうと思いました。今ならA.I.で人の形を自動で判断してマスク切りをすることができます。

 

Case.3 QC(クオリティチェック)はA.I.マシーンで

 お客さんで映像のマスタリングを行うところがあるのですが普段の映画やテレビドラマとは別にアダルトなビデオのQC作業をしているところに出会しました。QC作業といっても映像に乱れはないかとかを人が見ているだけなのですがその時担当していた方は女性、ビデオの内容は結構ハードでした。さすがに女性にそれをやらせるのはまずいと思いましたが当の本人は「仕事ですから」「内容に関してなんとも思いません」「マシーンのように作業してるので平気です」とのこと。本人が納得しているのならいいのですが、今なら本物のマシーンが代わりにQC作業をしてくれますよ。

 

 

 NABShow2023レポートで書きましたA.I.がDJとなってラジオ放送を行うRadioGPT(現在は改名してFuturi AudioAI)に機能が追加され人間のホストと AI パーソナリティの間の対話を容易にするツール、CoHostAIを展開しています。また別のツールCallerAIを使うとリスナーがA.I.のDJと直接電話して会話することもできるとのことです。A.I.ホストによるラジオ放送は深夜勤務やスポット的代役として既に使われています。

 

 A.I.によるコンテンツ制作の生産性向上は誰もが認めるところで、よりクリエイティブなことに集中できると歓迎されています。その一方で業界で働く人全てがクリエイティブな仕事を担当しているわけではなく、A.I.に取って代わられる可能性もあるということを考えておく必要があります。

  もう放送システムでクラウドを使うことに抵抗がある方も減ってきているんじゃないでしょうか?上記のA.I.を含めクラウドサービスとの連携をすればオンプレでシステムを構築するより低いコストで新しいテクノロジーを使うことができます。使ってみてダメだったら途中でさっと辞めることもできるのが利点でもあります。システムのコア部分だけはオンプレで構築して必要な機能を後からクラウドサービスを追加するといったやり方もあります。

 NABSHOWでは主にウエストホールがクラウド系放送システムの展示場になります。クラウドプラットフォームで勢いがあるのはAWSでしょうかね?自社のブースで仮想プライベートクラウド内でライブプロダクションシステムを構築。スイッチャーはソニーの M2L-X、タイトルグラフィクスにChyronを使ってました。クラウドで使えるスイッチャーは他にVizrtのTriCaster VectarやvMIXなどがあります。クラウドで使用するサーバーは使用するソフトウェアに合ったグレードのサーバーインスタンスを選択することができます。UnrealEngineを使ってバーチャルプロダクションをする場合はAmazon EC2 G5(NVIDIA A10G Tensor Core GPUか第2世代AMD EPYC搭載)、2D主体のライブプロダクションならAmazon EC2 G4かG3を選択と能力に見合ったコストでシステムを稼働することができます。異なる地域のデーターセンターへサーバーインスタンスを振り分けることができるので障害が起こった時の対処も可能です。
 クラウド上でシステムをデプロイ(使えるようにすること)には※以前より楽になったとはいえまだ専門的な知識が必要なところがありますが将来的にはSUBWAYでサンドイッチを注文するくらいの手間でシステムを稼働できるようになるでしょう。そうなれば必要な時間、金額的コストでのみスタジオを稼働させることができ必要なレベルにあったコンテンツ制作が即座に実現できます。

 ※一応AWSにはAWS Service Catalog という必要な機能をまとめて選択できる機能がありますがもっと簡単にという意味で

 シネマ用カメラを放送で使う動きがあります。ENGカメラとは違う浅い被写界深度やワイドカラーでの製作方法をテレビコンテンツに導入しようという試みです。ドラマやドキュメンタリーでは既に多くの実績がありますが最近はもう少し踏み込んでライブ放送システムに組み込めるようENGカメラとシネカメラのギャップを埋めて使えるようにシステム化するところがミソです。映画制作とは違ってテレビ制作でのワークフローでは、
 ・テレビ業界では色を撮影時にほとんど決めてしまう(映画業界は後でじっくりカラーグレーディング)
 ・マルチカメラでのオペレーション(同期の対処、カラー調整など)
 ・既存の放送設備との整合性
が求められます。カメラメーカー各社はシネマカメラにオプションをつけることで対応させています。

ARRI ALEXA 35 Live  外部リンクへ
 ARRIは既に放送用カメラとしてAMIRA Liveをリリースしていますが今回はALEXA版が発表されています。LPS-1の型番が付くシステムはカメラにドッカブルのカメラアダプタとベースステーションで構成さてれいてファイバーケーブルで接続します。Arri Webremoteで遠隔操作もできますしSkaarhoj社のRCPでコントロールも可能になります。

 

 RED CINE-BROADCAST MODULE  外部リンクへ
 RED社は放送やライブプロダクション向けのドッカブル型モジュールを発表。V-RAPTOR XL [X]、V-RAPTOR [X]に対応していて12G-SDIの他SMPTE ST 2110 (TR-08) や最大 4K 60P JPEG-XSでのIP伝送をすることができます。ベースステーションとの接続にLEMO SMPTE 311M/304Mハイブリッド光ファイバ ケーブルコネクタを備えています。

 

 SONY CBK-RPU7 NXL-ME80  外部リンクへ
 上記2つが有線ならSONYは5Gを使った無線での伝送システムを展示しています。カメラ側はCBK-RPU7、ベースステーションはNXL-ME80になります。BURANOやFX6などと接続して使うことができます。NXL-ME80側はオプションのソフトウェアでアップグレードすることによりSMPTE ST 2110の入出力に対応することができます。屋内設備であれば5Gアンテナを設置した方がいいかもしれませんね。

 

 RAID 日本ビデオシステム POLARIS RD-QX1、RD-QX100  外部リンクへ
 RAID社と日本ビデオシステム(Protech)が共同開発したREDカメラRED® V-RAPTOR 8K S35、RED® V-RAPTOR 8K VV + 6K S35に対応。RD-QX1はVマウントでカメラに装着。ハイブリッド光ファイバーケーブルでベースステーションのRD-QX100と接続します。TBS制作のドラマ「不適切にもほどがある!」で使われた実績があります。

 クリエイターエコノミーとはコンテンツクリエイターやインフルエンサーが自身のオリジナルコンテンツやサービスや商品の情報発信をして収入を得るという主にウェブ上を主戦場とする経済圏のことです。例えば商品を作ったメーカーではなく消費者側の観点で情報発信をして視聴者から直接(投げ銭など)または間接的(視聴数に対する対価として)に収入を受け取ることができます。あわよくば企業案件やコラボとかでスポンサーが付く場合もあります。
 NAB展示会場ではサウスホール上階にてCreater Lab というエリアを設けてクリエイターエコノミーに関するセッションや展示が行われていました。とある統計ではクリエイターエコノミー経済が2027年までに去年の倍に当たる4,800億ドルに達するそうです。NABではそういったことも抜け目なく取り込んでいます。クリエイターの情報発信にはビデオ制作のテクノロジーが欠かせませんのでコンテンツをより良く見せるためにもクリエイター、技術者ともにお互いをよりよく知っておく必要があります。このラボのスポンサーとしてBlackMagicDesignが関わっています。手頃な配信用機器としてよく使われています。
 技術面だけではなく経営面でも個人活動からエージェントやマネジメント会社を介しての活動にシフトしています。日本国内ではマネジメント会社の収益がダダ下がりとか発信者の炎上とかでニュースにもなることがありますがクリエイターエコノミーの健全な成長のためにも初期の牧歌的なところは卒業してしっかりと成長軌道に乗せる行動が必要になってきます。

 NAB2023展示会を遡ること1月半ほど前に衝撃的なニュースが発表されました。それは、
  ニコンがRED社を買収
という見出しです。SONYやCANONのように従来からシネカメラをリリースし続けているところではなく、いきなりニコン。それ以前にRED社とは係争中じゃなかったっけ?というイメージを根底から覆すという誰もが驚いたニュースでした。RED社のニコンに対する訴訟の取り下げ→買収の発表、NABShow直前にニコンのRED社買収手続きが完了と実にスムーズな流れで周りからするとポカンと口を開けたままという感じいると思われます。

 RED Digital Cinema社についておさらい
RED Digital Cinema社(以下RED社)はサングラスやメガネの会社、オークリーの創業者であるジム・ジャナードによって設立された会社です。創業者自身カメラおたくということもあり4K シネカメラをリリースします。それがRED Oneです。2万ドルを切る本体価格にRAW収録と当時としては画期的で大手映画制作者以外のインディペンデント系や中小制作会社にもデジタルシネカメラを扱える道が開けました。またメジャーに対する反体制的なイメージもあり(周りが勝手に思っただけかもしれませんが)それに共感するファンがつく稀有なメーカーでもあります。
 RED社の社長が交代した頃に問題となる特許を発表します。(特許US8872933B2)  どういったものかと簡単に言うと、
 「RAW圧縮して内部記録できるカメラ」
というものです。もう少し細かいことも規定しているのですがそれにしても他のメーカーからすればそんなの特許になるのかよ!という悲鳴が上がります。RED社はこれを元にシネカメラメーカーに訴訟を仕掛け次々と勝訴していきます。負けた方は仕方なく次のような苦肉の策を取らざるを経なくなりました。
 ・おとなしくRED社にライセンス料を支払う
 ・ATOMOSなど外部のレコーダーで記録する
 ・カメラからRAW収録機能を取り除く
 ・お互いクロスライセンスを結んでゴニョゴニョする
といった感じになります。これでシネカメラのイノベーションが数年遅れたとする意見もあるほどです。今回のRED社買収の発端となったニコンのカメラ Z9は映画制作に十分な画質と能力は持っていますが特にシネカメラ用として売り出された製品ではありません。ニコンはこの買収に関して「両者の強みを融合して顧客のニーズを満たし、期待を超える優れたユーザー体験を提供する」と声明を出しています。今後を注視したいところです。

映画制作におけるシネカメラのシェア
 シネマ用カメラのメーカーは数多くありますがどのカメラが一番使われているかというのは気になるところです。実際の販売台数を知る術はないのですがメジャーな映画祭での受賞やノミネートされた作品に使われたカメラシステムを知ることはできます。メジャーとはオスカー賞、カンヌ・ベネチア・ベルリンの世界三大映画祭、インディペンデント系の映画祭であるサンダンス映画祭などです。
 それら映画祭で最も多く使われたシネカメラのメーカーはARRIです。(デジタル、フィルムを含む)しかも圧倒的に多く使われています。
どのくらい圧倒的かというとARRI以外のメーカー(RED、SONY、CANONなど)が束になっても全然追いつかないほどです。ソニーはシネカメラをリリースして結構経ちますがそれでも苦戦しています。REDはARRIの地位を脅かすまでにはいかず数年前からシェアを落としています。NetflixではREDのカメラが有勢です。これはNetflixのコンテンツ制作には厳密な規定があり、使用できるカメラが決まっていてそのリストにRED社のカメラが多く含まれているというのがあります。サンダンス映画祭のドキュメンタリー部門ではSONYやCANONのカメラを使うことが多いようです。
 映画以外にもシネカメラを使う傾向があり今後その市場規模がかなり増えると予想されているので新しい分野でのシネカメラ採用を各メーカー共々狙っていくと思われます。

 

 今年のNABShowはまずA.I.それ無しには語れないと展示会前から注目の的でした。実際既にあらゆるところでA.I.を使ってコンテンツ制作が成り立っています。まずは事務的要素の高いところから始まって徐々にクリエイティブなところまで進出してきています。新しい技術が出てもう昔には戻れないことのたとえで「電卓以前の時代に戻れますか?」という話がよく使われます。もちろん戻る気はさらさらないのですが代償として以前の職業がなくなってしまうことがセットとなります。イラストレーターの分野では既にA.I.に仕事を奪われつつあるといったことを聞きますが、それがやがてビデオ制作にもやって来るということです。立場を変えて元から人員の足りないスタートアップや中小企業としては朗報です。リストラやジョブローテーションを考えずに最初から生産性を高めるためにA.I.を使うことができます。
 NABShowは常に新しい技術が発表されています。十数回NABShowに参加している自分からすると新技術登場により無くなった製品、ひいては無くなった会社などいくらでも見てきています。ひどい時はあるブースで新技術の発表の裏で別なブースの会社がオワコン確定となることもあります。そういうことがあると分かった上でコンテンツ制作の手法をどうしていくか考える必要があります。
 円高は日本国内でのシステム投資にも影響を与えてくると思います。映像・音響機器メーカーのほとんどが海外製です。代理店も価格設定やサポートに苦労するかもしれません。システム構築にはしっかりとした目利きと設計が重要になってくると思われます。

 今年のNABShowはいろいろ考えさせられる展示会でした。