技術レビュー

オートフォーカスなのにちっともピントが合わないとお嘆きの方へ

 ビデオカメラでのピント(フォーカス)の合わせ方について書いていきます。カメラの操作で基本中の基本ではありますが高度なスキルを必要としますし対処の仕方も奥深いところがあります。プロの業界でも機材が高解像度に対応し大画面での視聴に移行していく過程で全然ピントが合わなくて躓いてしまうと言う歴史もありました。一般向けのカメラには高度なスキルがなくても撮影ができるようにオートフォーカス機能を搭載させています。専用の撮影機材でなくてもスマホで気軽に撮影し、Youtubeなどネット経由で自由に映像を見てもらえる世の中になりました。とはいえオートフォーカスを使っているであろう映像でフォーカスが外れているコンテンツがかなり存在します。最近は困ったことにテレビ放送でもフォーカスがズレた映像流れてたりしています。これも同じくオートフォーカスのカメラでの撮影なのにです。
 自分が長年スタジオ設計や機材開発をしているのでカメラのことを色々と質問を受けるのですが「このカメラオートフォーカスでピントが合わないんですよね〜」と言われることが稀にあります。確かにオートフォーカス機能の詰めが甘いカメラも存在することはあるのですがたいていは、
 「いやそりゃ、あなたのウデが悪いんですよ。」
ということになります。もちろん実際にこんなこと言いませんが、お使いのカメラの特性を理解すればオートフォーカスがちゃんと機能するということをお伝えしています。

 この原稿を書いているのは2024年、令和6年です。オートフォーカス(AF)でピントが合うように念じても思った通りに動作するカメラは開発されていません。将来的にはそのようなカメラが出てくるのかもしれませんが現状フォーカスが合わないのをカメラのせいにしても何の問題解決にもなりません。SNSでこのカメラ使えねぇとか悲報とか発信する前に道具をうまく使うためにはその道具の特性をよく知る必要があります。

 ビデオカメラでよく使われるコントラストAF方式とは?
オートフォーカスを実現させるのにLiDARとか専用の測距センサーを使ったものやA.I.で画像認識をしてフォーカス距離を計算するものが存在しますがビデオカメラのオートフォーカスとしてはコントラストAFが一般的です。理由としては別途センサーが必要ないのでコストが安い、ピントが正確ということが挙げられます。動作としてはレンズを動かして一番コントラストが強くなったところ=フォーカスが合ったと判断するという仕組みになっています。

 コントラストが強いということはどういうことなのか?
 簡単に言えば明暗差があってハッキリクッキリしている状態のことをコントラストが強いと言います。ボケずにハッキリクッキリしているならそこがピントの合う位置とすることができます。プロの現場では波形モニタ(ウェーブフォーム)という測定器を使ってコントラストが強いかどうか確認したりします。明暗差以外に波形のエッジが立っているかどうかでフォーカスが合っているか判断します。

 この画像ではピントが外れている画像の波形ではそうでない画像に比べてコントラストの幅が狭く、波形そのものが滑らかになっています。このような状態をピントが合っていないと見なすことができます。

 コントラストAFのレンズ動作
 まず初めにとりあえずレンズを動かします。とりあえずというのは開始時点のレンズ位置がフォーカスが合うポイントに対して手前側(前ピン)なのか奥側(後ピン)なのか判断する術が無いからです。レンズを動かしてコントラストが強くなるということがわかるということは逆にかえってボケたということもわかりますのでレンズ移動の正しい方向がその時点で判明することになります。そしてピントを合う位置を探りに行くのですがもう少しいけるかもと正しいピント位置を超えてしまいます。また逆にボケとことを検知して逆向きにレンズ移動。これを繰り返して正しいピント位置に収束するといった動作になります。

 図を見てわかる通り、余計な動きをしているように見えますよね?フォーカスが合うところを探っているだけなのですがどうしても他のオートフォーカス方式に比べてピントが合うまでの動作に時間がかかってしまいます。とは言えよっぽど速く動く物体の撮影とかでなければ問題ないと思います。

 オートフォーカスなのにピントがずれてしまう理由は簡単に言うとその仕組みに外れた撮影をしているからです。想定外なことではなく最初からウィークポイントとして知られています。いくつかその例を挙げていきます。

 コントラストAFでピントが合いづらい例
  あまり明暗差の無い均質な色の被写体を映している
 コントラストが強いか弱いかでピント位置を判断するので全体的に同じ明るさの被写体だとどこでレンズを止めていいかわからなくなってしまいます。また全体的に明る過ぎ(白トビ)、暗過ぎ(黒つぶれ)の映像でも適切にAFが動作しない場合があります。

コントラストに乏しい空や雲、布地なんかは苦手とするところ

  コントラストの強い被写体が別に存在する
 狙う対象物の他にコントラストの強い物体などがあるとそちらにピントが合ってしまいます。テレビ番組でもインタビューしている人の後ろにある背景(壁紙)とかにフォーカスが合ってしまっている映像とか見たことあるかと思います。また夜間のイルミネーションライトなどの点光源は最初からコントラストが強いと判断してしまう場合があります。

もっと薄いエンボス加工の壁紙にピントが合ってしまうことも

  コントラストAFが判断するエリアから外れている
 デフォルトでコントラスト判断を全画面でやっていることはあまりなくて大体画面中央あたりを使っています。狙う被写体がそこのエリアから外れていると当然ピントが合わないことになります。カメラによってはそのエリアの大きさや場所が変えられますので狙い通りのフレーミングでAFを効かせることができます。あまりエリア範囲を広げると上記の別のコントラストが強い別被写体にピンが合ってしまうことになります。 

予期しない人物?にフォーカスが合ってしまう例

フォーカスエリア設定の応用としてカメラ付随のモニタータッチパネルでライブビューを見ながらフォーカスしたい被写体を選択したり、瞳や顔認証で被写体を特定してエリア設定→コントラストAFといった複合的な動作をするカメラもあります。


 以上のようにオートフォーカス機能が迷うような映像を撮ってしまうとレンズが固定せずいつまでもピントを合わせにいく動きをし続けたりレンズの性能によってはブリージング(画像サイズが変わる現象)により安定しないクオリティの低いものとなってしまいます。